井上正敏先生の思い出

昭和55年卒 近藤裕一

 私が井上先生に初めてお会いしたのは,確か2回生の時だと恩う。講義の時には顔は知っていたものの先生の研究室に先輩を訪ねて初めて入ったときである。そのころの物理化学研究室は以前の古い建物で木の床であったと思う。その時には自分が後に研究生としてお世話になるとは全く思ってもいなかった。3回生後期になってどの特研を選ぼうかという時期になっても,物理化学は毎年人気がないので成績が悪くても入れてもらえるだろうという噂を聞いて,希望したのだった。今にして思えば,大変失礼であったと思う。
 さて,実際に私が特研に入って知ったことは,井上先生は教授会の前には必ず一杯ひっかけて会議に出かけること,それからタバコは2,3口吸うとすぐ消すこと,カキの種のピーナッツを捨てるという習慣であった。それから,朝早く缶ビールをもって出勤するときがあった。大学の先生でもこんな人がいてるんかと思いながらも,そのおかげで私もよく教授室のアルコールを失敬することができ,その当時の薬大の他の教室では考えられないような伸び伸びした特研生活を送ることができたと思う。また,井上先生と対照的な石田先生の存在によって,私が無縁と思っていた大学の先生や研究というものが身近なものとして見え始めたのもあの頃だった。大学生活の中で特研生の1年間が,大学に行くのが最も楽しく感じられたのも井上先生のキャラクターによるものが大きかったと思う。なぜ,こんなおもしろい教室に今まで学生が集まらなかったのだろうと不思議に思ったこともあったが,私が卒業以後特研生の数も毎年増えて,教室の同窓会に行く度に見知らぬ顔が多くなり,井上,石田両先生の努力(魅力?)が着実に実ってきたことを痛感する次第です。
 最後に井上先生の退官は非常に残念ですが,先生の退官後のご健康,ご活躍をお祈りするとともに,物理化学教室の並々の発展を心より期待します。


昭和55年(1981)卒業式
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