“髭剃りならぬ髭切り”
昭和40年卒 刀禰(戸塚)美智子
私達の母校に,数々の御功績を残され,又,御健康にて,御退職に至られました事を,心より感謝し,お嬉び申し上げます。井上先生には,二回生から,副手二年間と,計五年間,大学でお世話になりました。
特に印象深かった事は,当時の衛生化学教室には,終始学生が詰め掛けて居り,賑やかに話が飛び交って居た事です。これも先生の魅力あるお人柄に因るものと思います。
先生は,と申しますと,ペンチで“髭剃りならぬ髭切り”の術を片手に,モーツァルトを語られ,オーディオに関しては,可成りウルサイ方と察知して居りました。又,釣りがお好きで,よく,石鯛の三段引きの醍醐味の話を伺ったりもしました。
とても気さくで瓢瓢として居られた中に,とでも繊細で,お仕着せがましさを感じさせないやさしさを,私達は感じて居りました。今も私の生活の中に生きている事の一つに,先生の話,指示,一切は決してくどく無く,それでいて端的で心に残るという事です。先生の研究のデータ取りを失敗した時にも,「やってしもた事は,しょうないやろ」とおっしゃっただけでした。それだけに,「申し訳ない。よし,二度と失敗はやるまいぞ。」と心に合じたものでした。
とても年月の経過は速いもので,現在の私は,この当時の先生よりも年をとっているのですから不思議な気が致します。
昭和四十二年以来,お会いして居りませんが,どうぞ,いつまでもお元気で,そして高知の海で釣でも楽しんでいただけるといいですね。
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