何かいいことあるかもしれない
平成元年卒 伊与博美
出会いは2回生の物理化学Iの講義のとき。数学や物理が好きだった私にとって,この講義はほとんど抵抗がなかった。たとえどしやぶりの雨が降っていても,生徒の数が少なくても,いつも同じように大阪弁で淡々と講義される先生の声は,どこか力強さもあって,ノートを執りながら聞いているとなぜか落ち着ける90分だった。きっと,ずっと幼い頃から私の中でイメージしていた大学教授像に,どことなく風格のある井上先生がぴったりだったのかもしれない。周りの人はさておき,かなり出席率の高かった私だったけれど,後に,三年間余りも先生のご指導の下で研究することになろうとは・一その頃は夢にも思っていなかった。
時は流れて,特研生として物理化学研究室に所属してから,少しずつ先生の普段の生活にふれられるようになった。夏は水のようにビールを飲みほし,冬は革ジャンに薄手のマフラーをさらりとまいて歩いておられる姿がとても印象的だった。そんな先生の人柄や生き方を知るにつれ,先生の偉大さを感じたものだった。そのうち,あの煙草の香りで先生の存在を確認できるようになり,また私たちが作った移動表上で先生が自分のマグネットを“在室”に動かされるのを偶然見た日には,「あっ,今日は何かいいことあるかもしれない」と,こっそり思ったりもした。
小さなことにはこだわらない,中途半端や非人動的なことは決して許さない,よいものにこだわりを持って堂々と生きていらっしやる先生を拝見しながら,ささいなことで悩んでいる自分がとてもちっぼけな人間のように恩えたことが何度あったであろう。“人生,ばくちやさかい…”
昭和63年特研旅行・城崎にて…両手に花.この日,唄いまくられました.
平成元年(1989)卒業式にて
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